【他団体の取り組み】JICA理事長宛「フィリピン・ボホール灌漑事業の現地調査に関する意見書」提出される

5月10日、国際協力機構(JICA)理事長である緒方貞子氏宛に「フィリピン・ボホール灌漑事業の現地調査に関する意見書」がNGO4団体と1個人連名で提出された。いずれもスタディツアーや現地調査などでボホール現地を訪れたことのある団体個人である。

(意見書連名団体および個人)
関西フィリピン人権情報アクションセンター、国際環境NGO FoE Japan、債務と貧困を考えるジュビリー九州、フィリピン情報センター・ナゴヤ、栗田英幸(愛媛大学


【意見書本文】
「フィリピン・ボホール灌漑事業の現地調査に関する意見書」(PDFファイル〔全文〕を以下からダウンロードできます)
フィリピン・ボホール灌漑事業の現地調査に関する意見書.pdf 直


【添付資料】
・参考資料フィリピン・ボホール灌漑事業フェーズ1の実績(国際環境NGO FoE Japan 作成)(PDFファイルを以下からダウンロードできます)
参考資料フィリピン・ボホール灌漑事業フェーズ1の実績.pdf 直


 これは、今年4月23日に行われた「事業仕分け・第2弾」のJICA(有償資金協力)に関する議論(以下、参照)で、JICA側が「早速来月(5月)にも、ちゃんとした調査をして対応しようと思っている」と答弁したボホール現地調査に関して、「調査内容および実施地域」「調査の実施方法」「現地調査の報告書の公開」など現地調査に関する留意点を明記したもので、これまでのようなおざなりの調査ではなく、本質的な意味での問題発生の原因究明と問題解決に真に寄与しうる現地調査を実現させようとするものである。

【関連記事】
事業仕分け・第2段】「有償資金協力」を議論−ボホール灌漑プロジェクトが追及される
http://d.hatena.ne.jp/odanetkansai/20100425
【TBSニュース】失敗したODAプロジェクトとしてボホール灌漑プロジェクトの映像を放映
http://d.hatena.ne.jp/odanetkansai/20100425/1272113161


【以下、事業仕分けにおける議論〔ボホール関連部分〕】
評価者(松本氏):毎年のように会計検査院から効果が発現していない事業についての指摘がある。例えば、フィリピンの鉄道案件は50億円貸付され、利用客250万人を見込んでいたが、54万人のみと利用客は少ない。
 その他、昨日(22日)の民放で放送されたようにフィリピンの灌漑事業では約5000ヘクタールが灌漑される計画で、JICAはすべてできている(水が回っている)と評価しているにもかかわらず、農民は「水が来ていない」と言っている。
 つまり、この位利用されるはずだったのに利用されていない、あるいは、来るべきところに水が届いていない。会計検査院NGOから、こうした事例が多く報告されているのを見ると、審査段階に問題があるのではと思うが?


説明者JICA:ご指摘のフィリピンの灌漑について簡単に説明すると、円借款において設備
を作る部分がある他、農場の末端整備は先方政府が受益農民に整備していただくことになっている。円借款部分はできあがり、水の供給能力はあっても、末端の整備ができあがっていないため、実際に末端に水が来ていないところがある。
 1999年の事後評価の時点では、(円借款部分の)施設は出来上がっており、現地に行きサンプルチェックをしたところ、サンプルのところは出来ていたということ。
 その後、実は外部から指摘をもらい、今年2月に現地に見に行ったところ、確かに水が届いていないところがあった。理由は水路の途中で堰き止めたり、上流側で水を多く取りすぎでいたためで、末端まで水が届いていないことを確認した。
 これを受け、2月にも見に行ったわけだが、早速来月(5月)にも、ちゃんとした調査をして対応しようと思っている。

(以上、引用終わり)

 この現地調査に関しての目的と内容の詳細はJICAのHPに掲載された以下のPDFファイルから知ることができる。これによると「灌漑・水管理」と「社会配慮」それぞれ1名ずつ計2名のコンサルタントを雇い、第一次現地派遣期間(5月中旬から6月下旬まで)、第二次現地派遣期間(7月中旬〜9月上旬)の2回にわたる現地調査を行い、9月末に報告書が提出される予定である。

JICA「2010年4月・5月実施予定案件一覧表(業務実施契約簡易型)」
フィリピンボホール灌漑事業現状確認にかかる専門家派遣(5頁〜7頁)
http://www.jica.go.jp/chotatsu/consul/koji2009/pdf/20100331_gk_01.pdf


【以下、意見書本文〔一部抜粋〕】

                                    2010 年5 月10 日
国際協力機構
理事長緒方貞子殿

           フィリピン・ボホール灌漑事業の現地調査に関する意見書

 私たちは、政策提言、情報発信、および現地へのスタディツアー等の活動を通じて、フィリピンに係る社会・人権問題等に取り組んでいる日本の市民団体・ネットワークです。貴機構が有償資金協力、無償資金協力、また、技術協力と様々な形で援助してきたボホール灌漑事業についても現地NGO や住民組織による様々な問題の訴えから高い関心を持ち、事業地やその周辺地域の訪問・調査、また、貴機構との会合も含めた活動を行なってまいりました。

 この度、貴機構が同事業に関する現地調査を今月にも行なわれるご予定と知り、私たちは、貴機構による調査が、同事業の生み出した問題への取り組みを進めていく一つの契機になりうると高い期待を抱いております。一方で、本調査は、①本事業の問題点およびその原因の特定、②借金等を負っている農民の状況の特定――を目的としたものであるべきと考えております。つきましては、同調査の内容等に関し、以下、意見を述べさせていただきたく存じます。

 貴機構との会合でもお伝えしてきましたとおり、同事業、特にボホール灌漑事業フェーズ1 につきましては、以下の問題が現地から提起されてきました。

1.灌漑予定地域への水供給不可/不足
灌漑用水が供給されると約束された農地に灌漑用水が届かない、あるいは、必要な水量が必要な時期に届かない農地がある。後者については、例えば、雨季に灌漑用水は不要だが、特に、灌漑システムの末端において、灌漑用水の必要な乾季に供給不可/不足の状態が起こるとの意見が聞かれる。また、水稲を作付けしたものの、灌漑用水の供給不可/不足によって、収穫量が少ないとの報告が聞かれる。

2.整地作業による農地の不毛化と費用の借金化
整地作業後の農地に灌漑用水が供給されなかったため、水稲を作れず、また、肥沃な表土が剥ぎ取られたため、水稲以外の作物も作れなくなった農地がある。
また、灌漑用水が供給されていないにも関わらず、整地作業にかかった費用の返済義務がそのまま残っている。

 上記のように、同事業では灌漑用水の供給ができていない地域があり、目標灌漑面積を達成できていない憂慮すべき状況があることは貴機構もすでにご存知のとおりですが、特に、整地作業後、これまでの十数年間、不毛化した農地で、以前植えていた作物さえ収穫できなくなった農民らは、同事業以降、生活が向上するどころか、逆に収入機会の減少・喪失に苦しみ、整地作業費用の借金に悩まされてきました。私たちは、灌漑用水の供給不足の原因特定は言うまでもなくこうした被害状況の詳細な把握と解決・改善に向けた具体的な取り組みも非常に重要であると考えています。

 したがって、貴機構がこれまでに示されてきたご認識やご回答も踏まえ、今回の貴機構による現地調査において、以下の点に留意していただきたいと考えております。

(以下要点のみ)

●調査内容および実施地域

●調査の実施方法

●現地調査の報告書の公開

 繰り返しとなりますが、今回の調査を機に、現地の住民の方々が何年にも亘り訴え続けてきた問題が解決の方向に向かうことを期待しております。本意見書にご配慮いただき、貴機構の現地調査にあたりご検討いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

以上

(意見書連名団体および個人)
関西フィリピン人権情報アクションセンター
国際環境NGO FoE Japan
債務と貧困を考えるジュビリー九州
フィリピン情報センター・ナゴヤ
栗田英幸(愛媛大学

【連絡先】
国際環境NGO FoE Japan:清水
TEL: 03-6907-7217 FAX: 03-6907-7219
フィリピン情報センター・ナゴヤ:西井
TEL / Fax: 0586-23-5017

【添付資料】
・参考資料フィリピン・ボホール灌漑事業フェーズ1の実績(国際環境NGO FoE Japan 作成)