【新刊本のご案内】 『脱「国際協力」――開発と平和構築を超えて』‏(新評論、2011年8月22日発刊)

藤岡美恵子です。

下記のような本を出版しました。タイトルには現れていませんが、沖縄(松島泰勝さん)、ジュマ(下澤嶽さん)、インド(木村真希子さん)と、先住民族と開発・平和構築に関係する論考を収めています。日本の「国際協力」を根底から問い直すという意味で、各地の先住民族の運動とも深いところでつながった内容を扱っています。お読みいただければ幸いです。

      • 転送歓迎---

新刊本の紹介
『脱「国際協力」――開発と平和構築を超えて』
藤岡美恵子・越田清和・中野憲志編
新評論、2500円+税、270頁、2011年8月22日配本)


 「国際協力」をめぐる問題群と、「3・11」が突きつけている諸問題はどこでどう重なり合い、響き合っているのか――。


 本書は、既刊の「国際協力」本のほとんどが、各国政府やNGOがどんな「国際協力」を行い、そこにどんな問題があるかについて書かれたものであるのに対し、「国際協力」そのものをもう一度きちんと考え直すという本です。あるべき「国際協力論」を論じるというより、「国際協力」の政策と実践が、どのような政治、思考、イデオロギー、言説に支えられ、生み出されているかに焦点をあてています。
 
 第一の特徴は、「国際協力」の基本モデルともいえる開発と平和構築について、それに巻きこまれる人びと、先住民族などのコミュニティ、社会運動やNGOの視点から批判的に分析している点です。
 
 もう一つの特徴は、「国際協力」を日本社会が抱える問題とつなげて考察している点です。日本社会の問題とつなげて考えるという姿勢が、本書を「3・11」後の復旧・復興、NGOやボランティアによる協力のあり方を考える際にも、何らかの示唆を与えることができる本にしています。


 「国際協力」を根底から考えるという点で、本書はこれまでにないユニークな本です。是非お手にとってごらんください。


目次

序章
第一章 政官財ODAから地球市民による民際協力へ(村井吉敬
Essay1 「国際協力」誕生の背景とその意味(北野 収) 
第二章 日本の軍事援助(越田清和)
Essay2 差別を強化する琉球の開発(松島泰勝
第三章 イスラエル占領下の「開発援助」は公正な平和に貢献するか?――パレスチナ・ヨルダン渓谷における民族浄化と「平和と繁栄の回廊」構想(役重善洋)
第四章 人道支援における「オール・ジャパン」とNGOの独立(藤岡美恵子)
Essay3 アフガニスタンにおける民軍連携とNGO(長谷部貴俊)
第五章 日本の国際協力NGOは持続可能な社会を夢見るか?――自発性からの考察(高橋清貴)
Essay4 NGOによる平和促進活動とは?――バングラデシュチッタゴン丘陵の事例から(下澤 嶽)
Essay5 先住民族と「平和構築・開発」(木村真希子)
第六章 「保護する責任」にNO!という責任(中野憲志)


新評論サイト:
http://www.shinhyoron.co.jp/cgi-db/s_db/kensakutan.cgi?j1=978-4-7948-0876-9

NGOは誰のために活動するのか。「開発援助」による貧困と、「平和構築」による暴力から脱け出すために。

 NGOは政府とのパートナーシップを追求するあまりに独立性を失ってはいまいか、そして社会変革への志向も薄らぎつつあるのではないか。
本書の編者らが『国家・社会変革・NGO−政治への視線/NGO運動はどこへ向かうべきか』(新評論、2006年)を出版したのはそんな危機意識からであった。

 国際協力の分野においてその危機は今、さらに深まりつつある。国益実現のツールとしての政府開発援助(ODA)の戦略的活用路線がますます明確になり、対テロ戦争と並行共存する平和構築が日本の国際協力政策の中核の一つに位置づけられるようになっているからだ。本書はこの危機の深まりを捉えるために、国際協力政策の背景やその依拠する考え方、そして国際協力という言説そのものの見直しに主眼をおいている。

 本書の第一の特色は、非国家の視点から国際協力を論じている点にある。例えばODAを“援助する側”の論理ではなく“援助を受ける側”の視点で見れば、「開発援助」の思想と実態の“貧しさ”が見えてくる。本書のもう一つの特色は、問題提起と批判的省察の姿勢をもって主流の国際協力のあり方を検討している点にある。「平和構築」と呼ばれる一連の活動も、アフガニスタンなどの現場で起きていることを直視すれば、それが本当に平和を創出しているのか疑問に思わない方が難しい。むしろ“人道的帝国主義”と呼べるような事態が進行しつつあるといえる。

 福島第一原発事故によって原発推進における産官学政一体の癒着構造が明らかになった今、主流から外れることを恐れず、国家におもねることなく、被害に遭い切り捨てられる人々の立場に立って物を考え行動し続けることの重要性を、今ほど痛感することはない。NGOの出発点もそこにおくべきではないか。

(編者 藤岡 恵美子)