【6・24NGO4団体緊急提言】「ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ(案)」に対する提言

2010年6月24日、従来からODA改革に関わったきた以下のNGO4団体協同により、十分な議論が行われたとは言い難い中で突如として外務省から市民社会側に結論として提示された「ODAのあり方に関する検討・最終取りまとめ(案)」に対する緊急提言が外務省に提出されました。その後、「最終取りまとめ」は外務省により原文どおり6月29日に発表されました。NGO側は今回の「最終取りまとめ」が多くの問題点を含んでいることを指摘していますが、これについては、今後のODA見直しの具体化の中で引き続き論議し是正していく必要があります。この提言はその出発点です。


緊急提言提出4団体

(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
(特活)メコン・ウォッチ
(特活)国際環境NGO FoE Japan
(特活)関西NGO協議会



JACSES(「環境・持続社会」研究センター)のサイトより
ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ(案)」に対する提言
http://www.jacses.org/sdap/oda/teigen20100624.pdf


2010年6月24日


外務省国際協力局 御中


ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ(案)」に対する提言


昨年より、岡田外務大臣の主導のもと、その発現効果や現地での環境社会問題等、様々な課題が過去指摘されてきたODAに関し、見直しを進められてきたことは歓迎致します。しかし、ODAが国際社会の抱える貧困や環境等の問題の解決に貢献し、相手国の住民に喜ばれるもの、そして、「国民の理解と支持を得」られるものとなるためには、「ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ(案)」(以下、「最終取りまとめ案」)では不十分な点があると考えています。
従って、より徹底的な見直しを、市民社会との十分な議論を行いながら進めていくことが必要です。このような認識のもと、以下の提案をいたします。


(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
(特活)メコン・ウォッチ
(特活)国際環境NGO FoE Japan
(特活)関西NGO協議会


                 記



1.「最終とりまとめ」の扱いについて

私たちは、「最終とりまとめ案」が一般公開されておらず、議論がつくされていないことを深く憂慮している。
「最終とりまとめ案」は、一部のNGOおよび産業界にしか提示されておらず、NGO・外務省定期協議会全体会に出席するNGOに限った形で示されたのも6月16日(協議会の2日前)であり、現段階でも多くのNGOがこの文書の存在について知らない状態である。高い透明性が求められているODAを見直すプロセスにおいて、このような事態が起こってしまったことは遺憾である。
日本各地に多様なNGOが活動しており、すべてがNGO・外務省定期協議会に参加しているわけでもなく、またすべてがネットワークNGOに参加しているわけではない。また、ネットワークNGOにとっても、公開できない文書しかない状況では関係NGOの意見集約は困難であり、今後もNGOから多様な意見やプロセスへの不満が出されることが充分に予想される。情報は民主主義の通貨であり、公開性がなければ多様な知見を活用することは困難である。
こうした考えから、「最終取りまとめ案」は、まず一般に広く公開した上で、パブリック・コメント及び十分な議論1を踏まえ、最終化することを求めたい。


2.問題を引き起こさないための基準の明確化についての検討の継続

過去の経験からも明らかなように、いくら優れたODA 事業があっても、負の影響をもたらす事業が行われれば人々からの信頼が失われる。さらに、脆弱な社会の中で引き起こされる負の影響は、個々人の人生全体に取り返しのつかない被害を与える。これは、日本が主導しようとしている「人間の安全保障」に基づくODAへの信頼性を国際社会で失わせることにもなる。「最終とりまとめ案」では、以下の二点を明確に示す必要がある。

1)負の影響をもたらすODA事業を避け、「人間の安全保障」を実現するODA事業を行うという意志があること
2)今後、現段階で特に明らかになっている「被害をもたらしやすい条件」についての知見を集約し、ODAの「選択と集中」に活かしていく方向で見直しを進めること
わたしたちは、このためにはODA大綱を踏まえた基準作成が最も望ましいと考えているが(別添資料参照)、尐なくとも「最終とりまとめ案」では、次のように(下線部分が提案)言及すべきと考える。

修正提案:
6-1-1.援助の方向性の明確化
対象国・国際機関毎に援助・拠出金の意義や効果を分析した上で、援助方針を決定する。これにより、「選択と集中」による戦略的援助を行う。 そのため、我が国の援助の重点分野との関係、対象国の国造りへの姿勢、対象国の開発目標、我が国の開発コミットメント、我が国との二国間関係等に照らし、戦略的に判断の上、対象国毎の援助の方向性を明確化する。この際、人間の安全保障を損なわないよう社会・環境影響が回避困難な高リスク案件、紛争助長につながる案件、民主化基本的人権に否定的な影響がありうる案件、軍の関与がなければ実施が困難な事業などについては原則実施しない(詳細な基準については今後検討する)。その上で、援助を行うことの政策的有用性を国・地域横断的に評価し、対象国の援助吸収能力や援助ニーズを踏まえつつ、年度当初に策定する国際協力重点方針の下、援助を実施する(例:国際交渉への姿勢を踏まえて特定分野における援助を強化する、地域の重要性を比較して重点的に投入する等)。
1 例えば、新JICAの環境ガイドラインは、約2年もかけて33回の委員会における議論が行われた結果として完成したものである。環境ガイドラインよりもさらに幅広いテーマを扱うODAの見直しが、数回の定期協議会をもって十分な議論が確保されたとは言えない。


3.過去の問題プロジェクトの検証を踏まえた今後の政策形成

「9.国民の理解と支持の促進」では、「ODAの改善を行うだけではなく、(ODAの)意義と実態を国民へ伝える」としている。しかし、わたしたちはそれだけでは十分ではなく、過去の問題を明確に分析し、それらについて具体的にどのような改善を行うのかを明確に示さなくては、今後のODAへの信頼・支持を得ることはできないと考えている。この点については、複数のNGOが連名で提出している「過去に実施されたODAの問題点の検証を求める提言」を参照されたい。また、今後も政府・国会等と議論を積み重ねていきたいと考えるものであるが、当面、以下の表現を「最終とりまとめ案」に含めることを提言したい。

修正提案:
1-1.これまでのODAの評価
第二次世界大戦後の我が国の外交理念は・・・開発途上国・地域の発展に大きく貢献してきた。他方、アフリカやアジアの一部の国のように日本が主要な援助国であった国が重債務国となった場合や、国内の社会に大きな亀裂が生まれ内戦に至っている場合などもあり、安定や成長への貢献が十分できたか疑問視されている場合もある。また、残念ながらODAによる事業に関連して、社会・環境破壊が生まれた事例も報告されている。
1-2-2.国内環境の変化
これに対し、我か国国内の環境は ODAの推進にとって必ずしも好ましいものとは言えない。経済・財政状況が厳しい中、ODA予算は大幅に減少している。 また、ODAに対する国民の共感も低下している。世論調査の結果を見ると、経済協力を「積極的に進めるべきだ」との意見が減る一方、「なるべく少なくすべきだ」との意見か増加傾向にある。この背景には我が国の厳しい経済・財政事情があろうが、それとともに第二次大戦後の我が国の復興・経済成長期に我が国自身か外国や国際機関からの支援を受けたことを自ら経験していない世代が増え、いわば「ご恩返し」としての ODA という発想か支持を得られにくくなっていることも一因と考えられる。日本の財政状況の悪化に加え、ODA事業に関連して生じた社会・環境への悪影響や不適切なODAの実施などから、ODAが真に途上国の状況を改善しているのか疑念を持つ人がいることも一因と考えられる。

同時に、国民の意識が全体として内向き指向となり、海外での出来事や国際貢献そのものへの関心と支持も低下している。
1-2-3.これからのODAに求められること
これまで述べた状況を踏まえ、これからの ODA には以下のことが必要だと考える。
・過去の検証を踏まえたより戦略的・効果的な援助の実施
・上記の結果としての国民の強力な理解と支持
・開発課題に対応するための必要な資金の確保

2.ODA を見直した結果の概要
6)国民の理解と支持を得るため、これまでの問題の検証と改善方法の明確化、今後の実施の「見える化」と参加を促進する。

9.国民の理解と支持の促進
現在、我が国の経済・財政状況が厳しい中、開発協力の意義について国民の間に十分な共感が
得られておらず、ODAを増加していくべきとの積極的な支持も得られていない。開発協力の実施に不可欠な国民の理解と支持を得るため、これまでの問題の検証と改善方法の明確化、開発協力実務の改善に加え、その意義と実態を国民へ伝えるため、効率的な情報の発信と国民参加の促進に取り組む。


4.過去の失敗例の今後の事業への反映について

「6-4.評価の改善」において、評価を通じて、過去の成功例のみならず失敗例からも教訓を導き出し、それをフィードバックすることを提案されていることについて、大いに歓迎したい。確実に、この教訓の導き出しとフィードバックを行っていただきたい。
案件形成、評価、評価のフィードバックの各段階で公開での議論、市民参加の確保、情報公開の徹底を図るために、具体的に記載する必要がある。「最終とりまとめ案」では、次のように言及すべきと考える。

修正提案:
6-1-1.援助の方向性の明確化
? 国別援助計画の制度見直し
国毎の援助の重点分野や方針を一層明確にするため、国別援助計画を簡潔で戦略性の高いものに改編する。そのため、事業展開計画における実施予定案件情報の充実を図るとともに、既存の国別援助計画と事業展開計画を統合し、その内容及び策定プロセスを簡素化・合理化した上で、原則として全てのODA対象国について策定する。
6-2-2. PDCA サイクルにおける第3者の関与
援助の案件形成・実施・評価・改善というPDCAサイクルにおいて、第3者の関与を得て公開の場で議論を行うことにより、徹底した「見える化」と相まって、ODA の説明責任(アカウンタビリティ)の向上を図る。具体的には、これまで設置されていた無償資金協力実施適正会議を改組し、ODA適正会議(仮称)を設置し、無償資金協力、技術協力及び円借款を含むODAの案件の適正な形成を確保する。ODA適正会議については、第3者の関与、公開の場での議論を確保するものとする。また、評価段階においても、第3者の関与のあり方を検討する。
6-4-2.過去の成功例・失敗例から確実に教訓を学び取るための仕組み
(中略)また、具体的なプロジェクトを形成・選定する際には、必ず当該対象国の案件や(他国におけるものであっても)類似の案件に関するそれまでの評価結果が反映されているか、ODA適正会議等第三者の関与を得て確認する体制を整える。
6-4-3.評価の「見える化」による情報開示
(中略)また、案件レベルでは、事後評価報告書本体の内容を充実するとともに簡素化された概要版を作成し、分かりやすいものにする。
10-2-2.案件形成・実施能力向上のため機動力のある実施体制を整備
(中略)
PDCA サイクルを徹底する(プログラム単位の事業実施に適切な効果・成果指標の設定、評価部門の責任者に知見と経験を有する外部人材(有識者等)の登用を進めること、過去の教訓等を計画立案に反映するシステムの強化、案件形成・評価・評価のフィードバックの各段階で第三者の関与を得て公開の場で議論を行うこと等)。


5.海外投融資の再開

特殊法人等整理合理化計画」の一貫で2001年に廃止された海外投融資が、「最終取りまとめ案」において、海外投融資の再開することを前提とした表現となっている。海外投融資の再開については、行政改革の一環として廃止されたものを再開するのであることから、また以下のように、過去の海外投融資についてはいくつかの重大な課題が指摘されてきたことから、その再開の是非をまず検討し、その後再開すると決定された後にそのあり方を議論するべきである。

・ アルミやパルプ業界など特定業界の支援に結びついており、ODAの大目的である貧困削減等に貢献していないこと
・ 企業の秘密を理由に、情報が公開されないこと
・ 企業支援をしている、他の政府系金融機関である国際協力銀行との重複
・ 適切な保証状もとらずに融資契約を締結してしまう等の、援助機関としての融資審査
の甘さ

また、議論の際には、議論を徹底的に行うため、批判的な意見をもつ立場の第三者も含め、様々な意見を持つステークホルダーの参加を確保し、透明性が確保された形で、十分な議論が行われるべきである。

修正提案:
6-5-2.民間企業等との連携:日本の技術・システムの活用
JICAの海外投融資機能の再開の是非に関し、過去の失敗例・成功例を十分に検証し、検証結果を公開した上で、批判的な意見をもつ第三者も含め多様なステークホルダーの参加による議論の場の設置を確保する。JICAにおける執行体制を確立するため、関係省間で検討を加速する。


6.中進国およびODA卒業移行国向け円借款について

「最終とりまとめ案」では、「中進国向け円借款の対象分野の拡大(特に対アフリカ「広域インフラ」支援に言及)」、また、「ODA卒業移行国向け円借款の導入」について述べられている。これには以下の問題があると認識している。まず、大規模インフラ事業はそれに伴う環境社会影響も大きくなりがちであり、時に、取り返しのつかない負の影響を現地社会・環境に与える恐れがある。また、そうした環境社会影響を回避・最小化するためには案件監理にコストをかけざるを得ないため、事業運営費が増大することにつながる。また、借款は、相手国の累積債務を増やすことにつながり、貧富の格差が激しい国などでは、脆弱な層にも負担を強いる場合もある。さらに、仮に経済危機等により債務不履行に陥った際には、日本国民全体にも負担を強いることになる。
日本企業支援であれば、国際協力銀行JBIC)等、本来日本企業支援を目的とした公的機関が行えばよく、同様の目的達成のためにODAを振り向けることには疑問である。
したがって、6-2-3において「中進国向け円借款の対象分野の拡大」及び「ODA卒業国向け円借款の導入」の部分は削除するべきである。

修正提案:
提案:下記を削除する。
6-2-3.既存の援助手法の改善
? 円借款の戦略的活用(円借款制度の改革)
・ 中進国向け円借款の対象分野の拡大
現行制度上、アフリカを除く中進国向け円借款の対象分野は、市場からの資金調達が困難と見なされる「環境(気候変動対策円借款を含む)」、「人材育成支援」、「防災・災害対策」、「格差是正」の4分野に限定している。アフリカの中進国に関しては対アフリカ政策及び現場のニーズにかんがみ、「広域インフラ」及び「農業」も支援対象とする。他地域の中進国についても、外交政策やニーズに応じて対象分野の拡大を検討する。
ODA 卒業移行国向け円借款の導入
現行制度上、中進国を越える途上国に対しては、円借款供与は行っておらず、技術協力が中心である。他方、これらのODA 卒業移行国(注)にも引き続き円借款による支援ニーズがあることから、より効果的な援助を行うため、また、これらの国との関係強化を引き続き図っていく観点から、ODA 卒業移行国に対して円借款による支援を展開する。


7.無償資金協力の趣旨の明確化について

すでに5月14日付けで41団体および個人が提出した「ODA見直しに関する提言」に示したものの、とりまとめ案では、特段の記載がみられなかったため、改めて問題提起したい(詳細は同提言を参照)。予算に制約がある中、無償資金協力は人間の安全保障にかかわるソフト面での協力事業に限定すべきであり、大規模なインフラ案件に無償資金協力を供与すべきではない。また、ハコモノが中心である水産無償資金協力は廃止すべきである。


別 添:今後進めるべき基準策定について: ODA大綱における援助実施原則の基準の明確化
ODA大綱における援助実施原則を踏まえ、援助の「選択と集中」を効率的に実施するため、最も早い段階から事業をスクリーニングする具体的な基準を明文化することが必要である。基準設定にあたっては、過去のODAレビューから導くことが妥当である。これまでなされている過去ODAのレビューおよび除外リストの提案を踏まえ、下記の提案を今後の見直しで継続的に議論したい。

(1)環境と開発を両立させる。
【基準の例】
○同じ実施機関が行った類似案件において未解決の環境社会配慮問題の有無
○回避困難な高リスク要因の有無、例えば下記が考えられる。
熱帯モンスーン地域における大貯水池事業、分水嶺をまたいだ水の移動(=他水系への転流)を伴う大規模な水力発電事業、同一の河川を利用して複数のダムを建設する計画で、先行するダムの効果が確認できない場合、代替地の確保が難しい地域における大規模住民移転事業、保護地域指定を撤回して実施する事業、環境影響が国境を超える可能性のある河川でのダム開発事業
(2)軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する。
○軍事費が極端に多い国における事業
(3)テロや大量破壊兵器の拡散を防止するなど国際平和と安定を維持・強化するとともに、開発途上国はその国内資源を自国の経済社会開発のために適正かつ優先的に配分すべきであるとの観点から、開発途上国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入などの動向に十分注意を払う。
(4)開発途上国における民主化の促進、市場経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う。
○軍の関与がなければ事業の実施が困難な事業


以 上


本件連絡先
(特活)関西NGO協議会 担当:瀬良
〒530-0013 大阪市北区茶屋町2−30
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