【ODA改革ネットワーク関西の立脚点】提 言−三つのホショウを実現するODAへ−(2007年12月)

以下に掲載するのは2008年のG8洞爺湖サミットに向けて、ODA改革に関わっている日本の市民社会(関西NGO協議会、名古屋NGOセンター、横浜NGO連絡会、ODA改革ネットワーク)から日本政府に対して発せられた提言ですが、ODA改革ネットワーク関西はこの「三つのホショウ」論を基本的な立脚点として活動しています。


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三つのホショウ提言.doc 直


                            提 言
                  ―三つのホショウを実現するODAへ−

 約8億の人びとが飢餓に苦しみ、10億を超える人々が安全な水にアクセスできず、1日1ドル以下の生活を強いられる貧困。数千万人という規模で難民を生み出すと予測されている気候変動や環境破壊。毎日数十人もの民間人の犠牲者を伴い混迷を極める対テロ戦争。私たちの世界は未曾有の人類への課題を抱えて21世紀を歩み始めました。しかしながら、これらの問題は、グローバリゼーションの進展と共に拡大を続けています。

 「世界の人びとを隷従と圧政から自由にしたい」(憲法前文)と謳った憲法を持つ日本にとって、国際協力は責務です。そして、その責務の実施を、主権者である私たち市民が政府に預託したものが政府開発援助(ODA)です。国際協力とは、病を負った「私たち人類」に必要な「薬」であるとも言えます。しかし、「薬」は使い方を間違えると「毒」にもなります。グローバリゼーションの中で社会が混迷を深める今、私たちは「薬」の正しい使い方、すなわちODAのあり方を改めて考える必要があります。それは、私たち自身がの問題でもあるからです。

 私たち市民は、この「薬」を最も必要としている人たちのために、そして私たち自身のために、市民の声としてあるべきODAのあり方をここに提言します。


1. ODAが、地球規模の「人類の病気」を治す地球公共政策として機能するために、次の「三つの「ホショウ」」を、関連する政策文書の中でODAの基本理念として明示し、国内外にそれを表明して下さい。具体的には、ODA有識者会議の中間報告書、2008年のTICAD ⅣやG8サミットなどがその機会となると考えます。


ODAの基本理念】

1 将来の地球社会の「保証」

2 ODAは、地球にある自然を永続し、人びとが安心して生きられるようになるために供与されるものである。

3 国境を越えた社会「保障」

4 ODAは、「生きる」という権利を奪われた人びとへの社会福祉として供与されるものである。

5 行き過ぎた経済活動に対する「補償」


2.国際協力の中で、ODAが行うべき「援助」とは、その受取側と供与側とが対等・平等な関係の下で行われるものであり、基本的に受取側の住民の利益の促進に資するものでなければなりません。それは、広く国際社会の支持を得ているODAの定義であり、いかなる理由があろうとも、それを歪めることは国際社会の一員としての正当性を失うばかりでなく、日本の納税者の支持をも失うもので、非理性的なことです。従って、ODAの守備範囲を無定見に拡大し、雑多な思惑を介入させてはなりません。この観点から、ODAは次の三つの原則に則って対象を限定して実施されるよう、実施中並びに計画中の事業を包括的に見直すことを提案します。具体的には相手国政府との協議において、この原則を示し、交換公文など国際約束文書の中に相互の条件項目として盛り込んでください。また、国内でODAに関わる全ての関係者、特に実施を担う民間企業、コンサルタントNGOに対し行動指針として示してください。

ODA実施の原則】

1 住民主体の原則

2 ODAによる開発の主体は受取国の地域社会の住民とする。

3 最貧層優先の原則

4 最貧国・最貧層の人びとの利益を優先するものであって、ODA供与によって国内外で格差を助長するものであってはならない。

5 普遍的価値尊重の原則


3.いかなる理念・原則も、その実施が伴わなければ意味がありません。ODAが、その理念・原則にもとづいて実施されるためには、現地化の促進、情報の公開、評価の強化、説明責任の徹底といった実施体制の改善が必要です。2008年10月には、JBICとJICAが統合され、新JICAとして発足します。これを機に次の実施上の改善を行ってください。


ODA実施体制の改善】

1 よりODAの現地化を推進するために、無償資金協力、技術協力を含め、すべてのODA案件をアンダイド化する。

2 住民主体のODA案件形成・実施を担保するために、最初期段階から最終段階まで案件に関する情報を地域住民並びに日本社会の納税者に公開する。これには借款契約(L/A)や入札評価に関する文書も含まれ、現地住民に理解可能な言語・方法で公開する。また、公開の原則は二国間で調印する交換公文に盛り込む。

3 信頼性のある評価を確保するために、外務省や関係省庁から独立した第三者評価が行える体制を確立する。具体的には、国会にODAに関する委員会を常設し、この委員会が主導して、適切な形で現地住民やNGOの参加を確保した上で、政策から案件まで適正な勧告を責任をもって行う。

4 ODAの案件形成から実施妥当性調査(F/S)、詳細設計(D/D)、実施、そして評価まで、すべての段階で適切な形で説明責任が果たされなければならない。そのためには、一方的な情報提供ではなく、住民の意見をODA政策・案件にフィードバックさせるために住民参加ワークショップや公聴会パブリックコメントなどを適正な形で実施できるよう、必要な人員配置、予算措置、そして社会環境ガイドラインなど関連政策の改定を講じる。


4.以上の理念、原則、実施体制上の改善が確保された上で、ODAが行うべき具体的な施策について提言します。


【具体的施策】

1 三つの「ホショウ」を実現することは国際社会の責務であり、また受取側の住民に対する「共感」の姿勢を明確に示すためにも、適正なODAの事業量を確保する。その内容は、上記に掲げた「原則」に則り、無償資金協力を中心に貧困削減や社会開発及び地球環境の回復分野に重点配分する。

2 受取側において、基本的人権の尊重、住民の意味ある参加、適切な情報公開と説明責任の実施などが果たされない限り、ODAの本来の目的は実現しない。従って、日本政府は国連などと協力して受取国の人権・民主化状況を常に公正に把握できるような体制を整え、案件形成や交換公文の調印に先だって「人権・民主化対話」を行う。

3 受取国の人権・民主化状況の改善、ひいては開発の裨益が住民に享受できるようになるためには、市民社会の強化が不可欠である。これにはまず、受取側の住民は誰であっても異論や不都合・不利益を自由に発言出来、自主的に集会が持て、現地政府に十分な説明をさせられることが重要である。日本政府はこれらの人々を重要なパートナーと捉え、直接対話に努めると共に、現地政府がこれらの行為を妨げることがないよう適切な支援を行う。また、為替等経済環境の変化があったとしても、援助による不利益が生じないよう事前に考慮し、事後はこれらの問題に於いてもフィードバックが受けられる関係を維持する。

4 十分に住民のニーズを把握しないままに進められる経済成長目的のインフラ・プロジェクトは、時に強制的な住民移転や環境破壊など重大な負の影響を住民にもたらす。こうした問題は本来未然に防がれるべきであり、社会環境配慮ガイドラインのさらなる改善と確実な適用が必要であるが、実施中、実施後の適切な対応が「責任ある援助」として求められる。その観点から、問題が起こった場合に、住民の異議申し立てを受け付ける国際的な第三者機関を設置し、法的な観点も含めて適切に処理するメカニズムを創設する。OECDDAC(開発援助委員会)の中に設置することも一案である。


 ODAが日本社会の市民から支持と信頼を得られないのは、対テロ戦争や資源確保など雑多な目的を介入させるために、理念・原則が不明瞭であり、政府と企業のもたれ合いの中で不正に対する処罰が曖昧のまま見過ごされ、現地において適切な効果が発揮されるよう努力することを怠っているからです。この構造的問題が解決されない限り、ODAが私たち人類自身の適切な「薬」となることは難しいと考えます。新自由主義的なグローバリゼーションが進展する中、格差の拡大、地球環境の破壊、差別と不寛容の深刻化していますが、現在の安全保障や通商産業分野での政策がこの流れを助長しています。日本国憲法の精神に従えば、自国のことのみに専念して他国を無視するものであってはならず、少なくともODAは、世界の人々との「平和共存」を早急に実現するための政策手段にしていくべきであると考えます。そのことを私たち市民は、切に願います。


2007年12月7日

呼びかけ団体:
(特活)関西NGO協議会
(特活)名古屋NGOセンター
(特活)横浜NGO連絡会
ODA改革ネットワーク